二月、如月。
「如」とは、天地のあらゆるものが春に向かって動き出すという意味があります。
まだ寒さ厳しい朝、母屋に生けた水仙が凛とした香りを放ち静かに春の訪れを告げています。
蔵の外では霜がきらめき、耳納の山々は朝靄に包まれ、筑後川の流れもどこか柔らかくなったように見えます。
蔵の中では、【山の壽純米大吟醸山田錦38】の袋搾りに向けた準備が、静かに進んでいます。
この酒は、山の壽の“真”を極めた先にある、もうひとつの頂き。
一滴一滴が自然の恵みと人の手の結晶であり、まるで春を待つ蕾のように、静かにその時を待っています。
今年使用する山田錦は、令和七年産。
この年の山田錦は、出穂期に恵まれた日照と高温の影響で米の溶け方に一筋縄ではいかぬ難しさが潜んでいます。けれどだからこそ、私たちはより丁寧により謙虚に米と向き合うのです。
袋搾りに使う酒袋は、留仕込みから上槽までの約1カ月間何度も何度も洗い、香り移りがないか、繊維の状態はどうか、指先と鼻先で確かめながら、その日に備えて手入れをしていきます。
袋搾りは、酒にとっても、私たちにとっても、特別な時間です。
圧をかけず、自然の重みだけで滴り落ちる雫は、麹が醪となって語り合いたどり着いた答えのようです。
その一滴に、蔵人たちの祈りと誠実さが宿ります。
如月の空気は、まだ冬の名残をとどめながらも、どこか柔らかく、光の粒が増してきたように感じます。
蔵の隙間から差し込む陽が、酒袋を照らし、雫に小さな虹を映すとき、私たちは自然と笑顔になります。
それは春の気配と酒の誕生が重なるほんのひとときの時間。
やがて搾られた酒は、1日も早く滓引きされ、瓶火入れを行い、冷ややかな蔵の奥で眠りにつきます。
蔵から出荷されるその日まで。
どうぞ如月の蔵の静けさと袋搾りの一滴に込めた春の予感を感じてください。

三月、弥生。
まだ形を成しきらぬものに、そっと光が差し込む季節。
芽吹きの気配に耳を澄ませ、形を整える月ではなく、すでに動きだしたものがきちんと育つかどうかを信じて待つ月。まだ整っていなくてもそれは遅れではない。そうした視点をいにしえの人は残してくれています。
それを感じる時、私の中に余白が生まれ酒造りの後半戦を頑張る気持ちにさせてくれます。
そんな静かな時間に寄り添うお酒が生まれました。

【ヤマノコトブキグッドタイムズ 春のひみつ】
グラスに注げば、軟らかな光をまとった甘やかな香りがふわりと立ち上り、心をほどいていきます。口に含めば軽やかな飲み口の奥で醪由来の織りなす繊細な泡がそっと弾け、まるで春の陽に誘われて蕾が少しずつ開いていく瞬間のよう。
春の息吹が舌の上で花開く、春を感じさせてくれるお酒です。
“真”となる酒 山の壽純米大吟醸山田錦38。
“行”となる酒 ヤマノコトブキグッドタイムズ春のひみつ。
“真”と“行”の酒がもたらす、心ほどけるひとときをお楽しみください。
春は、もうすぐそこにきています。
※「ヤマノコトブキグッドタイムズ 春のひみつ」は2月18日頃発売予定です。



