第五章 静けさの中の如月、そっと光が差し込む弥生

「如き
」とは、天地のあらゆるものが春に向かって動くという意味があります。
まだ寒さ厳しい朝、母屋に生けた水仙が凛とした香りを放ち静かに春の訪れを告げています。
蔵の外霜ではがきらめき、耳納の山々は朝靄に包まれ、筑後川の流れもなんとなく柔らかく見えます。

蔵の中では、【山の壽純米大吟醸山田錦38】の袋搾りに向けた準備が、静かに進んでいます。
この酒は、山の壽の“真”を極めた先にある、もう一つの頂。
一滴が自然の恵みと人の手の結晶であり、まるで春を待つ蕾のように、静かにその時を待っています。

今年使用する山田錦は、令和七年産。
この年の山田錦は、出穂期に恵まれた日照と高温の影響で米の溶け方に一筋縄ではいかぬ難しさが潜んでいます。袋搾り
に使う酒袋は、仕込みから上槽までの約1カ月何度も何度も洗い、香りがどうか、繊維の状態はどうか、指先と鼻先で悩みながら、その日に備えて手入れをしていきます。

袋搾りは、酒にとっても、私たちにとっても、特別な時間です。
圧力をかけず、自然の重みだけで滴り落ちる雫は、麹が醪となって語り合いたどり着いた答えのようなものです

如月の空気は、まだ冬の名残りをしながらも、どこか柔らかく、光の粒が増えてきたように感じます。
蔵の隙間から差し込む陽が、酒袋を照らし、雫に小さな虹を映すとき、私たちは自然と笑顔になります。
それは春の気配と酒の誕生が訪れるほんのひとときの時間です。

戦略搾られた酒は、1日も早く滓引きされ、瓶火入れを行い、冷ややかな蔵の奥で眠りにつきます。
蔵から出荷されるその日まで。
どうぞ月の蔵の静けさと袋搾り一滴に込めた春の予感を感じてください。

まだ形が成らないものに、そっと
光が差し込む季節。
芽吹きの気配に耳を澄ませて、形を整える月ではなく、すでに動いていたものがきちんと育つかどうかを信じて待っている月。まだ整っていなくてもそれは時間が
ない

【ヤマノコトブキグッドタイムズ 春のひみつ】

グラスに注げば、軟らかな光をとった優しい香りがふわりと立ち上り、心ほどいていきます。 口に含めれば軽やかな飲み口の奥で醪由来の織りなす繊細な泡がそっと弾け、まるで春の陽に聞こえて蕾が少しずつ開いていく瞬間のような。
春の息吹が舌の上で花開き、春を感じさせてくれるお酒です。

「真」となる酒 山の壽純米大吟醸山田錦38。
「行」となる酒 ヤマノコトブキグッドタイムズ春のひみつ。

「真」と「行」の酒が生まれ、心ほどけるひとときをお楽しみください。
春は、もうすぐそこにきています。

 

※「ヤマノコトブキグッドタイムズ 春のひみつ」は2月18日頃発売予定です。

山の壽酒造

分かり易く・飲みやすく・フレッシュなガス感を感じてもらえる生酒の製法の開発など、毎年新しい試みを積極的に行っているエネルギー溢れる福岡 久留米の酒蔵です。

片山郁代

創業1818年山の壽酒造八代目蔵元。
趣味は心を整える茶道と体幹を鍛えるトレーニング。
読書好きな夫と食べ盛りの息子2名と囲む賑やかな食卓が、一番の癒し。