第九回 スティーリー・ダンと飲んだ夜



 さっきから、このテーブルは気まずい。相席でもいいですかと通されたこの店で、目の前にいるのは、なんとドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカー。つまり、スティーリー・ダンのふたりだ。な、何か飲みます? いや、何を話しかけても、この世界一の皮肉屋コンビにはまともに取り合ってもらえそうもない。
 スティーリー・ダンの「ブラック・カウ」という曲が好きで、昔なんとなく意味を調べたことがある。日本語にすると「黒い乳牛」。だが、これはスラングで、ノンアルコールのドリンクのこと。それはルートビアにアイスクリームを浮かべた、いわゆるフロート(コーラ・フロートを指す場合もある)で、ノンアルどころか、お子様向けの超ソフト・ドリンク。
 フェイゲンとベッカーが、この曲で用意した舞台は、業界人の溜まり場になっているバー。かつて自分の恋人が、酔っ払って(あるいはドラッグで)ハイになり、ハタ迷惑をかけている様子を目にして、「お前みたいなもんは、そのお子様ドリンク(ブラック・カウ)でも飲んで、さっさと消え失せろ」と吐き捨てる。つまり、子どもみたいに業界人ぶっているみっともなさを、情け容赦なく切り捨てている。
 もっと怖いのは、この曲が単なる歌のなかの寓話では終わらないこと。だって、ふたりがケチョンケチョンにしたのは「かつての恋人であるおまえ(you)」。これって、別に「あいつ(heとかshe)」とかでもいいはずだけど、わざわざ自分と関係があった人間を持ち出しているのは、その「おまえ」を「おれ」のなかにも見ているから。ヒット曲を出して、曲やアルバムが評価されて、ヒップとかスマートとか言われてのぼせあがって、スノッブな場所に行けるチャンスをつかんで。あの「消え失せろ」は、あそこで居心地の悪さを隠そうとして浮かれてる「おまえ」は、かつての「おれ」かもしれないよ、って自分(そしてこの曲を聴いているわれわれ)への最大の警句にもなっている。
 「おい、何か飲むかい?」
 不機嫌そうな相方に気をつかうように、こちらに話しかけてくれたのは、ベッカーだった。こ、ここは「ブラック・カウ」って答えるべき?
 「ぶ、ぶ、ぶ……」と言いかけて唇がぷるぷると震える。
 「ふん、そんな答えはもう100万回聞いたよ」とフェイゲンは相変わらずつまらなそうだ。まだ答えてもいないのに。
 あ、あ、あ、と迷った挙句、テーブルの上に右腕を上げてウェイターを呼ぼうとしたら、そのポーズが『ナイトフライ』になっていた。フェイゲンは相変わらずムスッとしていたけど、ベッカーは下を向いてちょっとだけ吹き出していた。

轟木渡
轟木渡

スティーリーダンのふたりを前にして飲むべき一杯

緊張感のあるこのシーンには、さらにピリッとしたお酒をオーダーしてみたりして。

極上の胡椒のスピリッツ「ペッパースペシャリテ」。
グラスから立ち上がるスパイシーなブラックペッパーの香りが刺激的。
スッキリとドライな口当たりはハイボールでグイっと飲みたい。

ちなみに唐揚げにめちゃくちゃ合います。
スティーリーダンのおふたりも唐揚げ一緒に食べませんか?

スピリッツ クラフトマン多田 ペッパースペシャリテ 25度 700ml

かつて世界一の「胡椒」王国だったカンボジア。
そのカンボジアで一度廃れてしまった胡椒を復活させたのが日本人の倉田浩伸さんでした。
福岡 筑前町の「クラフトマン多田」五代目杜氏の多田匠さんはその生き様に感銘を受け、いつかお酒にして紹介したい!と考えていたそう。

今までにない新しい蒸留酒をお楽しみください。

販売価格 3,960円

松永良平

リズム&ペンシル。雑誌/ウェブを中心に記事執筆、インタビューなどを行う。著書に『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社)『20世紀グレーテスト・ヒッツ』(音楽出版社)。Instagramにて猫イラスト「#一日一猫mrbq」随時公開中。のんべえではないですが、お酒は好きです。