フランスを中心に、世界各国の自然派ワインを輸入するラヴニールの代表・大園弘さん。
今回のmy favoriteな造り手は、フランス南西地方のシャトー・レスティニャックです。
自然をつぶさに観察し、畑や気候の変化を見つめ続けるマチアスとカミーユ。
その人柄や畑での取り組み、これからのワイン造りについてお話を伺いました。
佐藤(とどろき酒店)
――今日は、どんなワインを飲みましょうか。
大園弘(ラヴニール)
シャトー・レスティニャックの「アン・ブラン2019白」と「タンペット2021赤」です。
――今回、この2本を選んだ理由は。
今日はたまたまレスティニャックのTシャツを着ていたというのもあるんですけど(笑)。ラヴニールを代表する造り手でもありますし、改めてきちんと魅力を伝えたいと思っていたんです。皆さんにも長く覚えていただいている生産者なので、もう一度しっかり紹介したいなと思いました。

サロンで出会った、忘れられないワイン
――レスティニャックとは、いつ頃出会ったのでしょうか。
ラヴニールを立ち上げた翌年、2014年頃ですね。当時は、新しい生産者と出会うためにワインサロンへ足を運ぶことが重要でした。モンペリエ近郊で開かれた「ル・ヴァン・ド・メ・ザミ」というサロンで、初めて彼らのワインを飲んだんです。
――サロンって、本当にたくさんのワインがありますよね。
そうですね。彼らのワインを最初に飲んだとき「すごくおいしいな」と思って。そのあと、ほかのブースをまわっても、ずっと印象に残っていたんです。しばらくして、もう一度飲みたくなって、彼らのブースに戻りました。それくらい、忘れられない味わいでした。
その後、すぐに取引を始めて、日本でも少しずつ紹介していきました。おかげさまで好評をいただいて、今では「ラヴニールといえばレスティニャック」と言っていただけるような、看板の造り手になっています。

静かに自然と向き合う、思慮深い造り手
――レスティニャックを手がけているのは、どんな人たちですか。
マチアスとカミーユの夫婦が営んでいます。ドメーヌを訪れると、まず畑へ連れていってくれるんですが、そこで印象に残っているのがマチアスの姿です。いつも何かを考えているような人なんです。マチアスが先を歩いて、僕がその後ろについていく。風景を見ながら、歩いている間もずっと何かを考えている。その後ろ姿が印象的でした。
――思慮深い人なんですね。
そうですね。あまり多くを話すタイプではなくて、じっと何かを見て、考えている。自然からなにかを聞いているような感じなんです。畑を歩きながら、植物や周囲の様子を観察して、「どうなっているんだろう」といつも見て、考えているんでしょうね。
――来日されたことはあるんですか。
2017年に2人で来てもらいました。1週間で北海道から九州までまわる、かなり詰め込んだスケジュールだったんです。少しでも多くのお客さんと接する機会をつくりたくて、予定をびっしり入れてしまって。途中からは、夜になると居眠りしそうなくらい疲れていましたね。時差もありますし、後になって悪いことをしたなと思いました。それでも、自分たちのワインについてきちんと説明してくれる。そういうところにも、2人の誠実さを感じました。

造り手の生き方まで含めて、ワインを選ぶ
――大園さんが、ナチュラルワインの世界に入ったのはいつ頃ですか。
1999年です。ラヴニールを設立する前は、フランス・パリに本拠を置くワイン輸出商社にいて、日本駐在員として活動していました。フランスの生産者を発掘し、日本のインポーターに紹介する会社です。1998年設立で、私はその翌年に入社しました。
当時は、まだ「自然派」という言葉もなかったんです。でもフランス各地に、ほかのワインにはないおいしさを持つ生産者が、ぽつぽつと現れていました。何が違うのか、その頃はまだうまく言葉にはできなかった。でも、「彼らのワインは何か違う。これは追いかけていかなきゃいけない」と感じていましたね。2000年代半ばになると、そうした生産者もかなり増えてきました。
――その後、ラヴニールを立ち上げられたのは、どのような経緯からだったのでしょうか。
何か大きなきっかけがあったわけではないのですが、これからワインに関わっていくうえで、どういうやり方がいいのかと考えたときに、自分が「これだ」と思う生産者を、自分の考えで紹介していく。その方がいいんじゃないかと思ったんです。それで、2013年にラヴニールを立ち上げました。
――たくさんの生産者がいる中で、取引を始めるときは、何を基準にしていますか。
私たちが扱う自然派ワインは、生産者がいて、そのワインができる。いわば生産者ベースなんです。その人でなければ出せない味がある。もちろん、おいしいことは大前提です。でも、それと同じくらい、あるいはそれ以上に、その人の生き方や人柄、ワイン造りへの考え方を見ています。
なぜこの土地で、どんな考えでワインを造っているのか。そこに納得できて、自分も共感できたときに、「ぜひこの人のワインを紹介したい」と思うんです。
言われた通りの造り方をやめた理由
――では、改めてレスティニャックのワイン造りについて教えてください。
もともと叔父さんが所有していたシャトーを、「お前が継がないなら売るけど、どうする?」と言われて、マチアスが受け継いだそうです。ワイン造りを始めたのは2009年。それまでワインを造った経験がなかったので、最初は醸造コンサルタントの指導を受けていました。培養酵母や酵素、酸、タンニンなど、さまざまな醸造用資材を箱いっぱい持ってきて、「こういうときはこれを使う」と教えてくれるんです。最初の年は、言われた通りに造ったそうです。
その年のワイン造りが一段落した頃、近くの生産者たちがそれぞれ自分のワインを持ち寄って、みんなで飲む機会がありました。そこでマチアスが感じたのが、「どのワインを飲んでも同じ味がする」ということでした。
――同じ味に感じたのには、何か理由があったんですか。
周辺の生産者たちも同じ醸造コンサルタントから指導を受けて、同じような造り方をしていたからなんです。それでマチアスは、「俺がワインを造る意味ってあるのかな」と思った。これが、マチアスのワイン造りの始まりなんです。それから、言われた通りに造るのをやめて、自分で考えてワインを造るようになりました。

土壌と森林農法が生む、独特の奥深さ
――「アン・ブラン」は香ばしさや熟成のニュアンスもあって、味の要素がすごく多いですよね。この複雑な味わいは、どこから生まれてくるんですか。
自社畑のブドウで造る「シャトー・レスティニャック」のワインには、独特の奥深さがあると思うんです。その理由は大きく2つあって、ひとつは土壌。もうひとつは、マチアスとカミーユの畑仕事です。
――「アン・ブラン」の土壌について教えてください。
マチアスから聞いた話なのですが、一般的に「偉大な白ワインは石灰質土壌から生まれる」と言われているそうです。ところが、「アン・ブラン」の畑は、白色粘土と青色粘土からなる粘土質の土壌。マチアスは、「粘土質からでも偉大な白ワインが生まれる。そのことを、このワインが証明している」と話していました。
――もうひとつの理由である畑仕事についてはどうですか。
彼らは、その土地の力を最大限に生かして、ブドウの木が本来の活力を発揮できるような畑仕事をしています。その象徴ともいえるのが、森林農法、いわゆるアグロフォレストリーです。
――森林農法とは、どのような農法ですか。
温暖化が進む今、昔と同じようなブドウ栽培では、いいワインを造ることが難しくなっています。以前は、ブドウの木にできるだけ多く日光を当てて、しっかり熟させることが大切だと考えられていました。ところが今は、日照が強すぎて糖度ばかりが上がり、酸が落ちてしまう。そこでマチアスとカミーユは、光合成をある程度抑え、ブドウをゆっくり熟させる栽培に取り組んでいます。
そのひとつが「パーゴラ仕立て」です。通常はある程度の高さで切る枝をそのまま伸ばし、畝をまたぐようにアーチ状につなげていく。そうして日陰をつくることで、ブドウが一気に熟すのを防ぎ、酸を保ちながらゆっくり成熟させていきます。
さらに、ブドウの木の間には、洋梨やリンゴ、プラム、サクランボなど、さまざまな果樹も植えています。成長して葉を茂らせると、畑に日陰ができる。また、多様な植物が共存することで、昆虫や小動物も増え、畑全体に豊かな生態系が生まれていくんです。
地中でも同じで、さまざまな植物の根があることで、多様な微生物が生息できるようになります。ブドウの木は、そうした微生物の働きを介して、土の養分やミネラルを取り込んでいく。こうした畑の多様性が、レスティニャックのワインの複雑な味わいにも表れていると思います。

自分たちの理想と、地域の未来を支える2つのライン
――レスティニャックは、買いブドウでもワインを造っていますよね。
はい。買いブドウで造っているのが、ネゴシアンの「オー・レ・ミュール」です。もともとレスティニャックには17haの畑があったのですが、マチアスとカミーユは、自分たちが考えるワイン造りを突き詰めるために、手がける畑を7haまで減らしました。
――「オー・レ・ミュール」は、どんな考えで造っているのですか。
単に買ったブドウでワインを造る、というものではありません。地域の若い栽培家に、より自然で良質なブドウを育ててもらい、それをレスティニャックが買い取ってワインにする。そうすることで、地域の農業者や栽培家を支える取り組みにもなっています。
一方、「シャトー・レスティニャック」では、マチアスとカミーユが信じる栽培やワイン造りを徹底し、最大限手をかけながら、理想とするワインを追求しています。そうやって、自社畑の「シャトー・レスティニャック」と、地域の栽培家と取り組む「オー・レ・ミュール」という、2つのラインを展開しているんです。
消えゆく伝統品種を、未来へ残す
――「アン・ブラン」には、どのようなブドウ品種が使われているんですか。
基本になるのはソーヴィニヨンとセミヨンですが、シュナン・ブランやプチ・マンサン、クルビュ、メルロ・ブランなど、いろいろな品種を使っています。その中には、今では絶滅しかかっている南西地方の伝統品種もあるんです。放っておけば、いずれなくなってしまう。マチアスとカミーユは「自分たちが残していかなければ」と考えて、そうした品種を畑に植えています。
そこには、将来の気候を見据える意味もあります。今はこの土地に合っている品種でも、将来は合わなくなるかもしれない。逆に、今はほとんど使われていない品種が、将来とても重要になる可能性もある。
マチアスとカミーユは、今だけではなく、その先を見ながらワインを造っているんです。自分たちだけではなく、これからのワインのことまで考えて、こうした取り組みを続けているんだと思います。

料理に寄り添い心を豊かにする、レスティニャックの世界
――「タンペット」は、カベルネらしいハーバルな深さがありながら、全体としてはしなやかでエレガント。荒々しさより、繊細な印象がありますね。
そうですね。レスティニャックの赤ワインも、昔とはずいぶん味わいが変わってきています。以前はもう少しクラシックで、ボルドーに近いようなスタイルでした。今の「タンペット」はタッチが軽やかで、それでいて味わい深く、余韻もしっかり残る。料理にも合わせやすいワインだと思います。
――レスティニャックのワインは、どんな料理と相性がいいですか。
実際、フランスでは星付きレストランや高級店で扱われることが増えています。繊細に組み立てられた料理と合わせて供されることも多いですね。
とはいえ、「このジャンルが合う」とひとつに決めるのは難しいですね。日本なら割烹でもいいと思いますし、素材を生かした中華にも合う。今日の2本でいえば、「アン・ブラン」も複雑な風味を持っているので、どの要素を拾うかによって、合わせる料理も変わってきます。山菜でもいいし、生の魚にハーブや果物を添えた料理でもいい。きちんと作られた料理なら、かなり幅広く合わせられると思います。
――最後に。このワインを通して、飲む人に何を感じてほしいですか。
シャトー・レスティニャックのワインは、単なるアルコール飲料とは違うと思うんです。飲むことで、心を豊かにしてくれる。福岡には、食の豊かさを感じさせてくれる飲食店がたくさんあります。そういう場所でこのワインを味わってもらえたら、食事の時間もより豊かなものになると思います。
それから、マチアスとカミーユは、常に先を見ながら、ワイン造りやブドウ栽培がどうあるべきかを考えています。私たちも今だけを見るのではなく、その先のことを考えながら、彼らのワインを飲む。そんなふうにワインと向き合うのもいいのではないでしょうか。




