2025年10月22日、とどろき酒店薬院standに「キムラセラーズ」の木村滋久さんをお招きして、試飲会を開催しました。ニュージーランドに自社畑を持ち、家族のみで運営しているワイナリーです。南半球という日本とは季節の違う環境で、どんな経緯でどんな哲学を持ってワインづくりに取り組まれているのか、木村さんにお話をおうかがいしたいと思います。
スキルアップから始まった、ワイン人生
佐藤圭佑(とどろき酒店)
____ではまず、ご経歴をお聞かせください。
木村さん(キムラセラーズ)
東京出身で「ザ・キャピトルホテル東急(旧キャピトル東急ホテル)」に10年勤務していました。そのうち、レストラン勤務がおよそ7年で、そこで初めてワインに触れることになりまして。
____もともとワインが好きということではなかったんですね。
ええ、実は焼酎派でした(笑)。自分の得意分野を広げたいという気持ちがあって、ワインスクールに通うようになったんです。それからソムリエの資格を取得しました。
____その後生産者になるまでに。ワインの世界にぐっと引き寄せられる出来事があったんですか?
ソムリエ試験に合格したご褒美として、ボルドー・シャンパーニュ地方のツアーに参加したんです。そこで生産者の情熱に触れて、ブドウ畑の雰囲気や醸造所の匂いとか、ワイン製造というものに心惹かれて。やっぱり生産地で飲むワインは美味しいんですよ。そこで道がぱっと開けたような。
____おいくつの頃でしょうか?
30代前半でしたね。ホテルを退社して、ニュージーランドで醸造を学ぶことにしました。
____留学先はフランスではなく、ニュージーランドだったんですね。
言葉の壁や、資金面での事情もありまして。当時は大体3~4年のコースが主流だったんです。諦めかけた時にニュージーランドには1年でワインについて学べる教育機関「ポリテクニック」があることを知りまして。
____ワイナリーを立ち上げるまでに期間はどのくらいかかったんでしょうか?
5年くらいですね。英語の勉強を1年、ワイン醸造とブドウ栽培を学んで1年、その後「クロ・アンリ」や「ヴィラマリア」などのワイナリーで修業して、2009年に「キムラセラーズ」を設立しました。その後も事業と学問を両立しながら、2012年にリンカーン大学の学士号を取得し、学びを深めていきましたね。
____日本に帰るという選択肢はなかったんですか?
もちろん帰りたい気持ちはあったんですが、醸造の経験はまだまだ、もっと力をつけなければと感じて。学んだことはその環境で実践したいと思っていて、まずはここで一本のワインから作ろうという気持ちで始まりました。

アロマに胸弾むワインを目指して
____では、製造されているワインについてお聞かせください。今日試飲させていただいたワインはどれも香りが豊かなものばかりでした。
はい、アロマティック品種中心のラインナップです。香りをかいだ時に胸が弾むワインを目指しています。そして飲んだ時に、自然と笑みを浮かべてしまうような。
____特にソーヴィニヨン・ブランは果実味も豊か。2016年のシドニー・インターナショナル・ワインコンペティションではゴールドを受賞されていますね。
ソーヴィニヨン・ブランは設立当初から契約農家さんに栽培いただいている品種で、さらに2018年からは自社畑を購入して、オーガニック農法を始めました(オーガニック認証BIOGROを取得)。
____設立から約10年経ってから自社畑を始められたんですね。
はい。マールボロという生産地にあるのですが、0.7ヘクタールというとても小さな規模です。畑にはソーヴィニヨン・ブランだけでなく、マスタード、そばの実、大根なども植えているんですよ。多種植物を育てることで、根が土壌を改善してくれます。
____自然な形で健康な土づくりをされているんですね。今回のソーヴィニヨン・ブランはトロピカルフルーツやグレープフルーツにハーブなどのニュアンスを感じました。
適度な収量が樹勢を抑え、完熟に寄与するというマールボロ産の特性をうまく出せたかなと思います。アロマは力強く、余韻が長い自信作です。
____他にもやさしいコクにバニラ香がエレガントなシャルドネ、キリッとドライでレモンやリンゴが爽やかに香るリースリング、熟した果実味に上品なタンニンがバランスよくまとまったピノ・ノワール、そして酸味が特徴的なアルバリーニョも面白い味わいでした。
アルバリーニョはニュージーランドでもとても希少な品種です。チャンスがあって醸造することができました。鋭角の酸味に果実味がのっていますよね。魚介類によく合います。
どれも単一品種の特性が本当によく出ていますね。
木村さん:うちは生産量が少ない分、一つの畑で賄えるので土地感が出やすいのが強みかなと思います。おのずと土地が見え、生産者の顔が浮かぶようなワインになっているとうれしいです。
____一方、ブレンドにも「キムラセラーズ」らしさを感じました。
ブレンドはどちらかというと“お家の味”かな。夫婦でブレンドの比率を決めていくんですが、私たちの好みもあって、いうなれば家庭の味ですよね。
____ゲヴェルツトラミネール、リースリング、ピノ・グリのトロピカルなスパイシーさ、柑橘系の酸味、ふくよかな厚みが見事に合わさって、まさに胸が高鳴るワインでした。
3つのブドウ品種を一つのグラスで楽しめ、なおかつそのハーモニーを楽しめるワインを目指しました。
____どれもが突出し過ぎていなくて、全部が最終的にすっとエレガントに終わるっていう。木村さんのワインに一貫して感じる余韻です。
まさに! 今おっしゃっていただいたことは、私の目指すゴールのひとつなんです。ちなみにこの白のブレンドは、食前酒としても推したいですね。料理しながら飲むようなキッチンドリンクにも最高ですよ。
微笑みをもたらす新シリーズも
____通常のワインシリーズでは、ニュージーランドのシダ植物と日本の桜が描かれているラベルが印象的ですが、こちらのラベルは違うデザインですね。
横にして見てみてください。
____えっと、これは何の形だろう。。。
愛犬、ニコの肉球です。
____あ、本当だ!ワンちゃんの足跡ですね。
ソーヴィニヨン・ブランをより自然なつくりで仕上げた新しいキュベです。野生酵母が大半で、味わいはドライ、香りは爽やかで重厚感のある味わいに仕上がりました。ニコニコ、微笑みをもたらしてくれるワインであってほしいとの願いをこめた一本です。
____笑みが浮かぶワインを目指しているとおっしゃっていましたね。まさにそれを体現するシリーズが誕生したということですね。
毎年良いワインをつくり、少しずつ新しいチャレンジを続けていきたいと思っています。ワインは食卓に幸せを運ぶものであってほしいですし、お客さまだけでなくワインづくりに携わってもらっている全ての人に笑顔になってほしい。それが理念でもあります。
僕らも酒屋として商品をただ受け渡しするというドライな関係ではなく、木村さんが大事にされている気持ちを伝えていく役目もしっかりと担っていきたいです。
木村さん:そこがこの仕事の魅力だと思います。つながっている方と一緒に楽しめる。同じゴールを持って仕事ができる。笑顔のある現場から届いたものを、笑顔で飲むっていうのが一番!

____では、最後に。秋・冬と季節が深まってきた今、何かペアリングのご提案があれば教えてください。
そうですね、何がいいかな。シャルドネはムニエルやクリーム系の料理、サーモンパイもいいですね。リースリングは和食にも。今の季節だったら、きのことピノ・ノワール……。ただ、実はピンポイントでマッチングさせるようなゴールをあまり意識していないんですよね。以前、北九州のぬか炊きとピノ・ノワールが鳥肌立つくらいに合ったことがあって。そんな突発的な面白さも楽しんでいただければ。
____わあ、その組み合わせは試してみたいです!





ニュージーランドから9カ国の国へワインを卸されている木村さんですが、今回の新ヴィンテージを僕らの店でもご紹介できることがますます楽しみになりました。