第6回 ランディ・ニューマンと飲んだ夜

ランディ・ニューマンには友だちがひとりしかいない。そう聞いたことがある。本当だろうか?
 そんな悪口を言っていたのは、あのヴァン・ダイク・パークス。いや、彼はランディのこと、60年以上にわたってよく知ってるはずだから、あながち悪口でもないのかな。きついジョークかもしれない。でも、その「たったひとりの友だち」はヴァン・ダイクじゃないらしい。誰かなあ。これも古い付き合いのプロデューサー、レニー・ワロンカーなのかなあ。
 ランディといえば、映画『モンスターズ・インク』に提供した「君がいないと (If I Didn't Have You)」は、まさに友だちソングの決定版。でも、ひとりのさびしさも、それゆえの強がりも全部知ってるからこそ書ける歌だって気はする。若い頃のひねくれ者そのものなランディには、「最高に孤独 (Lonley At The Top)」っていう名曲もあるしね。
 待ち合わせした焼き鳥屋のドアを開けると、すでにランディはカウンターに座っていた。まだ約束の少し前なのに、グラスは半分くらい減っていた。「今来たところだよ、ってわたしに言わせたいんだろう?」と、こちらを一瞥。くせっ毛を強引に撫でつけているが、梅雨どきの湿気が近づいているのか、ところどころがくりんくりんと巻き上がっている。
 不機嫌そうに残ったグラスを飲み干すと、「大将、熱燗で、きついのを頼む」とランディはボソッと言った。え? 「大将」って言った? 焼き鳥の炭の調整に忙しいたいしょうにはランディのボソボソ声は届かず、代わりに若いバイトが「おかわり、何にしましょ?」と尋ねたら、お手上げだねというポーズをしてぼくに目で指図した。あ、こっちも注文ね。はいはい、バイスサワー。
 「で、物欲しそうな顔してる、きみはいったい誰?」
 そっちから呼び出したくせに、こっちが勝手にやって来て、私はむさ苦しく詰め寄られて困ってます、みたいな顔をランディはした。会話は気まずくはずまない。だが、こんな味気ない夜の積み重ねが、この人にまたとびきりきつい名曲を書かせてしまうんだろう。うまくいかない人間関係が作る溝が、きっとそのままこの人のレコードの溝になる。「それじゃ、ごゆっくり」。肩を軽くすくめて、ランディは店を出て行った。
 「お待たせしました」
 え? 頼んでないですよ、とうろたえると、さっきランディが注文していった酒だという。ランディ・ニューマンの置き土産、いや、捨て台詞みたいな酒? でも、やさしいとこあるじゃん。きっと明日は雨になるだろう。
 ひとくち飲んで、思わず「いいなアメリカ」と口から出た。広島のシンガー・ソングライター、ジョンとポール氏が、ランディの名曲「セイル・アウェイ」をカヴァーした、その歌い出しが「いいなアメリカ (In America)」。ランディは、アメリカがいい、なんて少しも思ってなさそう。それも含めて見事な訳詞だった。

轟木渡
轟木渡

ランディ・ニューマンの置き土産みたいなお酒

ランディが注文していったのはウイスキーのオンザロック。

カッと喉を熱くする琥珀の液体はだんだんと氷が解けて、ゆっくり優しくなっていく。
焼き鳥屋の喧騒の中、グラスの氷が触れ合う静かな音が響く。

スモーキーでバニラのような香りは宮崎県産の栗とアメリカンオークを使った樽から。
香ばしくも甘い、このジャパニーズシングルモルトウイスキーはじっくりと味わいたい。

尾鈴山 OSUZU MALT Chestnut Barrel (尾鈴モルト栗樽) 46度 700ml

尾鈴山蒸留所の原料は自家農園「甦る大地の会」を始め、すべて九州で栽培したものを使用。
自ら育て、自ら収穫した原料だからこそ、その特長を熟知し、十分に引き出すことができる。

甦る大地の会の大麦を手仕事でモルティングした麦芽を使用し、宮崎県産の栗とアメリカンオークを使った樽の中で熟成させたジャパニーズシングルモルトウイスキー。

松永良平

リズム&ペンシル。雑誌/ウェブを中心に記事執筆、インタビューなどを行う。著書に『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社)『20世紀グレーテスト・ヒッツ』(音楽出版社)。Instagramにて猫イラスト「#一日一猫mrbq」随時公開中。のんべえではないですが、お酒は好きです。