
前回の個性ある自然派ワインのエチケットの話から続いて、今回はとどろき酒店自社ワイナリー「Studio go go Winery」のラベル(エチケット)がどんな風に生まれたのか、ワインのネーミングも含めてその裏側をお話します。
今日取り上げるのは3本のワインです。
「名なしのベリオ」「ノンキャラヴァン」「ブートレグ」。
ワインの名前らしくない(?)かもしれませんが、醸造での思わぬ出来事が反映された僕ららしいネーミング。思い出を振り返りながら、ご紹介していきましょう。

(「名なしのベリオ」の品種構成の大部分を占めるマスカットベーリーAを栽培している和田農園の皆さん)
まずは「名なしのベリオ」。
このワインは毎年リリースしている「Studio go go Winery」の根幹といえる赤ワインです。ラベルにはブドウの実でリフティングしている男の子が描かれています。

「ベリオ」の由来はこのワインを構成するブドウ品種の大部分を占める「マスカットベーリーA」にちなんだもの。福岡県田川郡川崎町にある契約農家・和田農園さんにお願いして育ててもらっているマスカットベーリーAをメインに、自社栽培のブドウをブレンド。
日常的に気軽に飲んでもらいたいという意図から、親しみやすいネーミングを考えていました。当初の第一候補は「川崎ベリオ」。ところが地名をワインの名前に冠するには、醸造場所もブドウ産地と同じ場所にある必要があったのです。「川崎」を名のれなかったことから「名なしのベリオ」となった訳です。
デザイナーの野見山さんによると、リフティングしている男の子は「轟木さんの息子くんがサッカーに熱中している」という話から着想を得たそうです。実際にリフティングしている写真を見せてもらってデザインしたという、完全プライベートなデザイン。自然派ワインならではの、自由さを感じていただけたでしょうか?

続いては「ノンキャラヴァン」。
こちらも名前の由来は、はじめての醸造の年・2020年にまで遡ります。自社ワイナリーの設立は2021年だったため、この年のヴィンテージは収穫したブドウを福岡→大分→フェリーで大阪→山梨と長距離輸送して、間借りさせてもらう醸造場まで届けました。台風にも見舞われながらの、ドキドキの大キャラヴァン! その象徴として「キャラヴァン」としてリリースしたのです。

(2020年夏、初ヴィンテージの「キャラヴァン」となる葡萄は福岡で収穫後、フェリーに乗って山梨まで向かいました)
そして、2021年以降は自社設備で醸造。「キャラヴァン」から「ノンキャラヴァン」に改名したという流れです。ラベルは「名なしのベリオ」と同じトーンで、男の子がブドウを背負っています。そもそも「キャラヴァン」は隊商という意味で、商品を運ぶ商人の一団を指します。そのイメージから生まれたデザインです。
「葡萄を実際に収穫して運ぶという原始的な行動をポップなイラストで表現。背負ってる葡萄がぽろぽろと溢れているのは轟木さん発案の遊び心です」と野見山さん。
「名なしのベリオ」「ノンキャラヴァン」ともに、モノトーンのカラーリングにアクセントの赤色がきいています。「昔のボサノヴァのジャケットは2色くらいのシンプルなジャケットが多かった」という轟木社長との音楽話から、イメージが湧いたというのも面白いエピソードです。

では、最後に「ブートレグ」。
こちらのラベルは福岡のイラストレーター・ダテユウイチさんがレコードプレイヤーの絵を描いてくれています。なぜ音楽モチーフ? それを説明するにはこのワインの醸造の方向性を語る必要があります。
毎年同じ味わいのベクトルを目指す看板ワイン「名なしのベリオ」をレコードのサイドAとすると、「ブートレグ」はサイドB的な立ち位置。その年の収穫状況に応じてブドウの品種構成・比率・仕上がりを変える実験的ラインであり、ある年はドライに、ある年は濁りのあるオレンジワイン風と、出来上がりが毎年変わるのが特徴です。
つまり、この即興的な醸造は予定調和ではなく、アドリブを楽しむ「音楽スタジオ」のような発想なのです。「ブートレグ」は音楽用語では海賊版を意味し、定番のものからちょっと外れることも楽しむ醸造思想と世界観を表現。エチケットには音楽好きが集まる「Studio go go Winery」の表現の形を込めているのです。
そして僕たちも驚いたのが、「ブートレグ」は禁酒法時代の密造酒を指すワードでもあったということ。長靴(ブーツ)の筒(レッグ)に密造酒を隠していたことが由来だそうです。音楽用語から入ったつもりが、もともとはお酒由来の言葉だったとは。そんなネーミングの物語があるワインです。

さて、こんな風に生まれたラベル。お話する機会がないとなかなか気づけないストーリーが隠れていることを、今日はお伝えしました。カジュアルでポップな「ジャケ買い」歓迎なデザインですが、その中に作り手の想いや姿勢、時には苦労が込められています。
まずは気になったラベルのワインを手に取り、そのネーミングやデザインから「どんなワインかな?」と想像することからはじめてください。ワイン選びの楽しみはそこから始まっていますよ。



