齋藤圭吾(写真家)のMY FAVORITE THING「8トラック・テープのコレクション」

正式名称はStereo 8、通称8トラック(eight-track)。8トラック方式のカートリッジ式磁気テープ。1960年代半ばから1980年代にかけて、米国・欧州など世界中で広く使われた。 日本ではカーオーディオ用やカラオケ装置での音楽再生などに用いられ、俗に「8トラ」(ハチトラ)と呼ばれた。
8トラックの特徴はエンドレス再生で、構造上早送りによる曲の頭出しが出来ないため、トラックを切り替えることで楽曲プログラムを選択、4つのプログラムが1本のテープに平行して録音されていた。


磁気が分厚目に塗ってあるので音が良く、可愛いいんです。

____ 8トラック・テープを集め出したきっかけは?

最初に知り合いから森進⼀と北島三郎の8トラテープをもらったんです。
そのテープを聴くためにジャンクのプレイヤーをオークションで⾒つけて、メンテナンスに出しました。聴いてみたくてウズウズする気持ちを抑えて、メンテから戻ってくるまで約 3 ヶ⽉待って再生してみたら、こんどはテープ側のアルミのセンシングテープとスポンジパッドが劣化していて聴きけなかった。仕方なくテープを⾃分で分解、修理してやっと聴けるようになった。

____ 8トラックは何が魅力?

不便だし、すごくメンテがめんどうくさい。嵩張るし、仲間はいないし、いいことなんかほとんどない。でも何より音が抜群に良いんです。もうアナログレコードの比ではないくらい、素晴らしく音がいい。そしてそれが癖になる。例えば同じ曲でもレコードとは全く違って聴こえるので、それが楽しい。しかしレコードだと聴きたい曲に針を落とせば良いけど、1曲目から全部聴かないとまたその曲に辿り着けなかったりする。巻き戻し機能はなくて、早送りだけあるんです。また各トラックの演奏時間をほぼ同じにするために、ジャズやクラシックなどの⻑めの曲だと途中で勝⼿にフェードアウトして、次の⾯のあたまでまた勝⼿に途中からフェードインしてくるとかも。でもそこがまた可愛いい。
プレイヤーも色々と面白いものが発売されていた。名機といわれている AKAI のプレイヤーも5、6 台ストックを持っていますし、当時アメリカで流行ったというNationalのポータブルプレイヤーも可愛くて好きです。


 

____ テープはどこで入手するんですか?

主にオークションサイトですね。数年前、ディスクユニオンでも売っている時期がありました。いわゆるカセットテープは、最近のブームで⽇本のレコードショップでも普通に置くようになったけれど、8トラはなかなか⾒かけないですね。米国や英国のフリーマーケットで、たまにコンディション劣悪な8トラが⼤量なゴミのように出ているのを見つけて、異様な興奮状態で掘っていると、店主から呆れた愛想笑いを向けられたりします。カセットのデザインもカラフル & チープで可愛いいんです。ジャケットがレコードとはちょっと違ったデザインだったり、箱入りのものもあったりする。オートリバースなので、⻑距離トラックの運転⼿が当時の主なユーザーだったりしたこともあって、 米国では彼らが好きなロックやカントリー系、日本では演歌やムード歌謡系が人気だった。そその後、よりコンパクトなカセットテープが出てきて、だんだんと衰退して、今ではその存在すら忘れられて、完全に消滅したメディアです。

____ レコードなどよりも8トラで聴きたくなる?

『針と溝 stylus & groove』という、レコード針とレコードの溝だけの、かなり変態的な写真集を出版するぐらいなので、レコードの⾳はもちろん⼤好きですし、ほとんどの⾳源はレコードで聴いていますが、名盤と⾔われるようなレコードを聴く時に、つい「これ8トラだと、どうだろう?」という好奇心が抑えられなくなってしまう。レコーディングスタジオではテープに録⾳していて、レコードのように音を盤の溝に刻み込まずに、8トラはテープからテープにダビングしているので、⾳がよりリアルに聴こえる気がするんです。以前、50年代に録音されたビル・エヴァンスのアルバムのスタジオマスターテープを聴かせてもらったことがあるんですけど、 もうのけぞるようなえげつない⾳に、やはりテープの音はすごいなと思ったことがあります。

____ 古い温泉旅館の大広間とかに行くと、昔のプレイヤーがポツリと置いてあったりしますよね。宴会のカラオケ用として使っていたと思うんですが。

⽇本ではカラオケ⽤というかなり独自なかたちでも普及しましたね。アポロンやポニーなどのサードパーティのテープ会社もありました。
50 巻くらい⼊っている 70 年代のカラオケ⽤8トラのボックスセットを買ったんです。8トラカセットの持ち運び⽤にただ箱だけが欲しくて。中⾝のテープは捨てようかと思ったけど、試しに軽く聴いてみたらメチャクチャ⾳が良くて驚いた。 当時は各レコード会社所属のスタジオミュージシャンや⽣オーケストラできっちり録っているので、 ボーカルを抜いただけのインスト曲として⼗分その演奏を楽しめるし、 プロの歌⼿と全く同じオケに合わせて歌っていた当時のスナックのママやお客さんの気分に想いを馳せるのもまた⼀興です。シンセサイザーで再録した通信カラオケとは違う、味わい深い格別な⾳がするんですよね。とにかく8トラにはいろんな意味で魅⼒が詰まっています。

インタビュー・松尾伸也

齋藤圭吾

写真家。 1971年東京都⽣まれ。 1989~1994年 英国に移住。 帰国後、⾼橋恭司⽒に師事。 独⽴後、雑誌や書籍、広告など、様々なメディアで活動。 著書『針と溝 stylus & groove』『melt saito keigo』『記憶 のスパイス』など。 主な仕事に『Spectator 創刊号』『⾼⼭なおみの料理』『⾃炊。何にしようか』 『雲のうえ』『あんこの本』『京都の中華』『⾳のかたち』など。 当サイト内のコラム『ススメ!Studio go go Winery』でも撮影を担当。 Instagram → https://www.instagram.com/keigo.saito/