フランスを中心に、ヨーロッパ各地のワインを輸入するオルヴォーの村岡覚さん。
村岡さんの最近のmy favoriteな造り手は、ヨハネス・ツィリンガー。
複数のヴィンテージや品種、醸造方法を組み合わせ、
独自のワインを生み出すヨハネスとの出会いや、その人物像についてお話を伺いました。
佐藤圭佑(とどろき酒店)
――今日は、どんなワインを飲みましょうか。
村岡覚(オルヴォー)
ヨハネス・ツィリンガーの「Revolution White Solera」です。2013年から複数のヴィンテージをつないできたワインで、今回のリリースには2024年が新たに加わっています。
――フレッシュなのに、熟成感もありますね。
そうなんです。新しいヴィンテージのフレッシュさと、熟成を重ねたリザーブの味わいが同居しているのが、このワインの面白さなんですよ。
約150の候補から、最初に選んだ造り手

――この生産者との出会いは、いつ頃だったんですか。
2017年ですね。それまでオルヴォーでは、オーストリアの扱いはまだわずかで、僕自身も現地を訪れたことがありませんでした。初めて現地を訪れることになり、せっかくなら新しい生産者を探そうと大使館に問い合わせたところ、日本への輸出に興味を持つ約150の生産者が載ったリストが届いたんです。そのなかで、最初に訪問を決めたのがヨハネスでした。
――何が決め手だったのでしょうか。
まず目に留まったのが「Revolution」です。今では複数のヴィンテージを重ねる造りも増えましたが、当時はまだ珍しかった。造り方が面白く、資料に書かれていることもまっとうで、「実際に飲んでおいしかったら、すごくいいんじゃないか」と思ったんです。
――実際に訪れてみて、いかがでしたか。
想像していた以上によかったですね。最初の訪問は日帰りで、畑を見て試飲しました。当時のエントリーラインだった「VELUE Grüner」からすごくおいしくて、「これは絶対にやろう」と思いました。本命の「Revolution」も期待以上でしたし、畑の状態もよかったので、取り扱いを決めました。
――資料だけで判断するのではなく、実際に会うことも大切にされているんですね。
そうですね。大きな試飲会で見つけることもありますが、うちはどちらかというと、現地で生産者に会って決めることが多いんです。その方が全体の流れが見えますから。
「前提として、おいしかった」
――村岡さんがこの仕事を始めたのは、いつ頃ですか。
2003年です。その前にフランスに半年ほど滞在していて、帰国後にワインの仕事をしてみたいと思いました。最初に入った会社には4年ほど在籍して、ラピエールやグラムノンなどを扱っていました。
――当時は、いわゆる自然派もまだ今ほど知られていませんでしたよね。
そうですね。僕自身はブルゴーニュから入ったんですが、ラピエールのような造りはまだ珍しくて、ほかにはない魅力がありました。提案もしやすかったですし、すごく売りました(笑)。それが楽しかったんです。
――まだ知られていない価値を伝えることに、面白さを感じていたんですか。
そうですね。当時はまだ駆け出しで、大きなお店をたくさん担当していたわけでもなかったので、自分なりのプラスαをどうつくるか、という思いもありました。でも、珍しいから扱っていたわけではありません。前提として、おいしかったんですよね。
父から受け継いだ、有機農法
――代々続くワイナリーなんですよね。
そうですね。ツィリンガー家の歴史は古く、1673年からこの地でワインを造っています。ヨハネスは家業を継ぐことが早くから決まっていて、現在は当主を務めています。父のハンスは、まだオーガニックが注目されるずっと前の1984年に、農業全体を有機農法へ切り替えています。
――お父さまが有機農法に切り替えたきっかけは、何だったのでしょう。
当時はブドウ栽培と並行して養豚もしていて、病気になった子豚に抗生物質が効かなかったそうです。そこで、祖父から教わった酢を使う方法を試したところ、回復した。それをきっかけに農業のあり方を見直し、ドイツの有機農園を訪ねたと聞いています。
――ヨハネスが幼い頃には、すでに有機農法へ切り替わっていたんですね。
そうなんです。彼にとっては、流行を見てオーガニックへ転換したわけではなく、物心がついた頃から、それが当たり前だった。だから何かの影響を受けて始めたというより、受け継いだ環境を、自分なりにさらに先へ進めているのだと思います。
――畑はどんな場所にあるんですか。
オーストリアの北東部で、ウィーンよりもチェコ国境に近いほど北に位置しています。だからブドウがしっかり熟しても、酸がきれいに残る。ヨハネス自身も「ここは最高の場所だ」と何度も話しています。
自由な発想を支える、緻密な仕事
――「Revolution White Solera」は、どのような造りなんですか。
白は2013年のリースリングをベースに、新しいヴィンテージを加えながら2024年までつないでいます。そこにシャルドネやショイレーベを組み合わせます。年によって、果粒のまま使うか、どのくらい醸すか、タンクかアンフォラかまで、すべて自分で考えているんですよ。
――かなり緻密に組み立てているんですね。
そうですね。ヨハネスの中には、最初から造りたい味の絵がしっかりとある。セラーの扉には、実際に醸造の設計図が貼ってあります。それを見ると、頭の中でどれだけ細かく組み立てているのかがよくわかります。
――ほかの生産者から学んだものも取り入れているのでしょうか。
オーストリア国内の生産者とは交流がありますが、ほかの国で修業を重ねたわけではありません。ただ、ジョージアがまだ今ほど注目されていなかった頃に、現地を訪れています。そこで知った方法をそのまま使うのではなく、自分に必要な部分だけを取り入れる。その柔軟さも、彼らしいと思います。
――ヨハネスは、どんな方なんですか。
すごく緻密な人ですね。本人は、もしワイナリーを継がなかったら、時計職人になっていたかもしれないと話していました。家業を継ぐことは10代の頃には決まっていたので、あくまで別の道があったなら、という話です。でも、精密なものが好きなのは確かでしょうね。黄金比を取り入れたエチケットを作ったり、澱をやわらかく撹拌するために、樽そのものを回す装置を自作したり。ちょっとした発明家なんです。
――自分が思い描く味に対して、妥協しない人でもある?
そうですね。揮発酸やマメ香などの欠陥を嫌って、状態がよくなければタンクごと捨てることもあります。自分の名前で世に出す以上、中途半端なものは出さない。発想は自由ですが、仕事はとても緻密です。

来日を重ねて深まった信頼
――ヨハネスが初めて来日したときの様子を教えてください。
最初の訪問で取り扱いを決めた後、「香港に行くことがあるから、1日だけ日本に寄れる」と連絡があり、2019年11月に1泊の弾丸で来てくれたんです。オーストリアで会ったときは通訳がいましたが、日本ではいなかったので、最初はどうなるかと思いました。でも、渋谷、銀座、立石を回り、お客さんと一緒に飲むうちにすごく盛り上がって、最後はハグして別れた。あの来日で、ぐっと距離が近づきましたね。
――その後の来日では、どんな姿が印象に残っていますか。
これまで3回来日していますが、とにかく真面目なんです。ワイン会でも「今日は無理に全員と話さなくてもいいよ」と伝えているのに、参加者一人ひとりのところへ行って、きちんと話す。声も低くて、かっこいいんですよ(笑)。
――長く付き合うなかで、やり取りも変わりましたか。
もう10年近くになるので、やり取りもずいぶん気楽になりました。日本ではオーストリアといえばクラシック音楽のイメージが強いので、「自分のワインを飲みながら聴いてほしい音楽を教えて」と聞いたときは、クラシックが返ってくると思っていたんです。ところが、返ってきたのはAC/DCなどの80年代ロック。クラシックは1曲もなくて、かなりゴリゴリ(笑)。今では新たなリリースのたびに、テクニカルデータと一緒に、そのワインに合わせた音楽も届きます。
――これまでの交流で、特に思い出深い出来事はありますか。
日本で「RAW WINE」が初めて開催されたときのことですね。ヨハネスは「自分も出たい。ブース代も出す」と言っていたのに、結局、来られなくなったんです。それで僕がヨハネスのお面をかぶり、代わりにブースに立ちました。その後、3回目の来日では、またお面をかぶって本人の横に立ち、「今日は日本語吹き替え版でお送りします」と、ヨハネスになりきって話しました(笑)。
進化を重ねる「Revolution」
――今回のリリースは、どのような仕上がりですか。
すごくいいですね。酸がきれいで、果汁の旨みもしっかりある。毎年飲んでいると、少しずつステップアップしているのがわかるのですが、そのなかでも、ぐっと一段上がる年があるんです。2021年も大きく跳ねましたが、2024年が加わった今回も、もう一段上がったと感じます。特におすすめしたいリリースです。
――飲んでみると、素直においしいですね。口当たりはフレッシュで、余韻にはほろ苦さもある。味わいはなめらかで、全体が丸くまとまっています。
そうなんです。シトラスやジャスミンのような華やかさがありながら、味わいにはしっかりと厚みがある。複数のヴィンテージを重ねた造りだと聞くと、とっつきにくく感じるかもしれませんが、飲むとまったく難しさがないんですよ。春のリリース直後はフレッシュ感が前に出ていますが、秋頃になると、熟成したリザーブのよさが表れてきます。時間とともに表情が変わっていくのも面白いですね。
――料理は、どんなものと相性がいいと思いますか。
発酵の旨みがある料理とは、特に相性がいいですね。味噌や醤油を使ったものとは味わいが自然につながりますし、おばんざいにもよく合う。居酒屋で気軽に飲んでもおいしいと思います。複雑な造りでありながら、合わせる料理を選びすぎないところも魅力ですね。

難しく考えず、まずは飲んでみてほしい
――村岡さんのお話を聞くと、ヨハネスの自由な発想と緻密な仕事は、相反するものではなく、ひとつにつながっているように感じます。
そうですね。自由な発想を、緻密な仕事で着地させている。その両方があってこそ、ヨハネスらしい味になるのだと思います。
――ヨハネスのワインは、これから日本でどのように受け入れられていくと思いますか。
ワインの味わいそのものに国境はなくなってきていますし、飲み手が楽しめる味わいの幅も広がっています。以前なら少しむずかしいと思われたものも、今では自然に楽しんでもらえるようになりました。ヨハネスは「今年も来日したい」と言っているので、次は本人と一緒に、福岡でその魅力を伝えられたらいいですね。






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