第十二章 色づく長月、酒造りのはじまり

長月の久留米は、稲が刈られ始め、空に秋の気配が混じる季節です。 朝の風は夏の熱をわ
ずかに手放し、秋へ向かう静かな移ろいが広がっていきます。

2026年9月20日。 山の壽の酒造りが始まりました。

蔵の扉を開けると、空気が少しだけ張りつめ、これから始まる長い冬の造りを予感させま
す。

造りの初めに行うのが「秋洗い(あきあらい)」です。 7BYで使った道具たちを蔵の奥
から出し、ひとつひとつ丁寧に洗い、磨き、点検していきます。麹蓋、タンク、櫂棒、ホ
ース、計器類。どれも冬の造りを支える大切な相棒です。

秋洗いは、ただの作業ではありません。 酒造りの新しい季節を迎えるための、蔵の“儀式”
のようなものです。蔵人たちがこれからの造りで共に頑張る道具と向き合いながら、心を
造りのモードへ切り替えていく大切な時間です。その時間に入ると、蔵は一気に“造りの季
節の顔”になります。

これから造りの季節の訪れとともに、秋冬限定の一本をご案内させていただきます。 それ
は、「ヤマノコトブキグッドタイムズ ナイトセッション」。

爽やかなサマーセッションとは異なる、夜の時間を楽しむための一本です。コンセプトは
「月と私とナイトセッション」。 秋の夜長に寄り添う和三盆のような上品な甘さでゆっく
りと飲み続けられる穏やかな口当たりの季節限定酒です。

色づく長月は、酒造りのはじまりの季節です。 蔵が動き出し、人が集まり、道具が目覚め
、季節が深まる。 そのすべてが、これから続く冬の造りへ向けた確かな一歩となります。

 

あとがき ― 蔵の季節を歩いて -

とどろき酒店轟木渡社長からのお声かけで、 『蔵の季節を歩く ― 山の壽の一年』 という
コラムを書かせていただきました。

これまで、こうした文章を綴る機会はありませんでした。 けれど、本を読んだり、習い事
を通して先生や先輩方のお話を聞く中で、 「この言葉の使い方は素敵だな」 「こんな表
現があるんだな」 と心に残った言葉を少しずつ書き留めてきました。 その小さな積み重
ねが、このような形で表せたことを、とても嬉しく思っています。

蔵の一年を追いながら文章を書くことは、 自分自身を静かに見つめ直す時間でもありまし
た。 季節が変わるたびに蔵の表情が変わり、蔵人の姿勢が変わり、 自分の心もまた少し
ずつ整っていく。 そんな変化を言葉にすることで、 “蔵元としての軸”があらためて自分の
中に根を張っていくような感覚がありました。

その中で、八代目として私がやりたいことも見えてきました。 それは、 「山の壽 純米吟
醸 山田錦 辛口」 を蔵の柱として育てていきたいということです。

福岡の酒といえば「山の壽」。

そう胸を張って言える一本を、これからも様々な課題と向き合いながら造り続けていきた
い。 この酒が、山の壽の未来を支える確かな芯となるように。 山の壽の皆と共に、その
歩みを進めてまいります。

最後まで読んでくださった皆様、 季節の移ろいとともに歩む蔵の一年にお付き合いくださ
り本当にありがとうございました。 これからの山の壽の歩みを、皆様の食を通して感じて
いただけたら幸いです。

                    山の壽酒造株式会社 八代目当主 片山郁代

片山郁代

創業1818年山の壽酒造八代目蔵元。
趣味は心を整える茶道と体幹を鍛えるトレーニング。
読書好きな夫と食べ盛りの息子2名と囲む賑やかな食卓が、一番の癒し。

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