2025年の収穫から
いよいよ一本のワインへ
これまでブドウの収穫・醸造までをリポートし、次の工程であるブレンド・瓶詰めへと続くはずだった。けれど、その知らせは当初の予定の2026年2月を過ぎても一向に届かない。再び「Studio go go Winery」へ訪れたのは、残暑厳しき8月の末だった。5期目のワインに何が起きたのか?
轟木「今期はタンクでの熟成を長く設定してみたんです。ブレンドを行って瓶詰めを7月に行う予定だったのですが、トラブルが発生しまして……」
夏の猛暑でワイナリー庫内の温度が急上昇。タンクを冷却する「チラー」という機械がうまく機能しないという、ワインにとってはとても危険な状態。今まで冬に行っていた工程を夏に変えたことで、想定外のことが起きてしまったのだ。
轟木「タンクの温度が上がらないように応急処置をしつつ、急遽パワーのあるチラーを設置する工事が入ってしまい、それが終わるまで瓶詰めができないのです」
そんな訳で思いのほか間が空いてしまい、この連載も空白期間を経ていよいよ最終章。最後まで気の抜けない、ワイン造りの最終工程を見届けよう。
素材に合わせてレシピを考える
料理のようなイメージで

外の炎天下を感じさせないほど、ワイナリー内は涼しい。危機を脱したワインが瓶詰めの時を待つ。
2025年収穫のブドウで今期仕上げられたワインは全部で4種類。山田醸造長がブドウの個性を組み合わせてブレンドした赤ワイン1種と白ワイン3種だ。
ブドウの状態を鑑みてレシピを組み立てる。山田醸造長にとってワイン造りは料理に似ているという。
山田「マルシェで買った食材をその場でレシピを考えて料理を作るようなイメージです」
同じ品種でも、その年の天候や収穫時期によって状態は変わる。それ故に最初からすべてを決めておく訳ではない。どうすればそれぞれの品種の個性を引き出せるのかを考え、その積み重ねから生まれた4種だ。
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ルビー色の雫が瓶の中へ
『名なしのベリオ2025』

ワイナリーを訪れたこの日、試飲用のグラスにはルビー色の雫が注がれていた。前回の香り立つ醸造の現場にあった日本固有の黒ブドウ品種「マスカット・ベーリーA」をベースに、酸とコクのバランスに秀でたフランス南西部原産の白ブドウ「プティマンサン」、ミネラル感あるスペイン・ポルトガル原産の白ブドウ「アルバリーニョ」をブレンドしたもの。
タンクから出したばかりのフレッシュな味わいは「マスカット・ベーリーA」のイチゴのようなジューシーさに爽やかな酸が感じられ、すっきりとした飲み口でなんとも軽やか。これから瓶熟成を経て、味わいはさらに深まるのだろう。
瓶詰めの作業は機械が行うとはいえ、重労働。一本一本ボトルの口をガチャンと機械にはめ、ワインを充填。流れ作業で次の作業人へと渡し、「コルカート」と呼ばれる打栓機でコルクを差し込んでいく。素早く、けれど瓶が欠けないように丁寧に。900本を超えるボトルにワインが次々と満たされていった。
このワインの名は『名なしのベリオ』。2020年が初ヴィンテージで、当時はブドウ産地と醸造場が同地区内でなかったため、地名を表記できなかったことからこの名が付けられた。名はなくとも、個性はある。「Studio go go Winery」を代表するシリーズだ。
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思い入れ深き「甲州」をどう使うか
導き出したその答え

白ワインの仕上がりも尋ねてみた。修業先である山梨でたくさん触れてきた品種「甲州」は、山田醸造長にとって特別なもの。「甲州には馴染みがあるからこそ、楽しみにしていた」と語る一本は、「甲州」の単一品種ワイン『ボヤージュブラン2025』。和柑橘系のクリアな美味しさに仕上がったと振り返る。
「思い入れのある甲州をどう使うか?」山梨ともまた違う仕込み方で他にはない味わいを模索する山田醸造長。「甲州」の果皮から旨みを引き出し、「デラウェア」のアロマティックと合わせた『ブートレグ2025』はボディのあるワインに。
そして『ディスコテック2025』は「デラウェア」「甲州」「プティマンサン」「シャルドネ」の4品種をブレンドし、それぞれに役割を持たせた。「デラウェア」は香りとボディ。「甲州」はトップの清涼感。そしてヴィニフェラ品種である「プティマンサン」「シャルドネ」をミドルからアフターに生かす。
小さな積み重ねと多くの協力で
一本のワインになることを忘れずに

醸造そのものは、決して複雑なことをしている訳ではないという。ブドウの状態をしっかり見て、丁寧な選果、プレス、そして、その時々で少しずつ判断を変えていくこと。
山田「小さなことの積み重ねでオリジナリティを出せていると思います」。
醸造だけでは完結しない。ブドウを育てる人がいて、多くの人の協力があって一本のワインになる。自然だけでも、技術だけでもない。「Studio go go Winery」のワインを形づくっているものは、決して一つには絞れないのだ。
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美味しく飲み切られて
ワインは完結する

さて、これで完結? いえいえ、2025年のブドウから生まれたワインは、ここから時を重ねていく。
山田「インスピレーションを活かしながらブドウの良さを引き出せた時はとても嬉しいです。またその答えが分かるのは、できてすぐの時もあれば、5~6年経った時でもあるのが、ワイン造りの面白さだと思います」。
目指すのは日頃から気軽に開けられて、美味しく飲み切れるワイン。取り巻く環境は日々変わり、ワイン造りも苦労の連続だが、それでもこの気持ちは変わらない。
このワインが誰かの食卓で注がれるその時まで、この物語は続いていく。
文・生野朋子 写真・齋藤圭吾



