小説を読む時、まるで自分がその空間にいるかのように没入することがある。
登場人物の台詞ではなく、地の文が描写する情景であったり、空気感からだ。
さて、私は日本酒を飲む際、香りや味を楽しむことが中心だ。
それらの要素はその酒自身。いわばキャラクター性と言える。
この「会津娘 “穣”」はそこに景色を追加してくれる。
『ひとつの田んぼからひとつの商品をつくる』ことを信条に醸される“穣” 。
この酒は全て同じ会津産米でもそれぞれ「田んぼ違い」でリリースされる。
日本酒は使用される米の詳細な情報が開示されることが非常に少ない。
「国産米」としか記載されていない日本酒もしばしばある。もちろん素晴らしいお酒も多いが、これでは造られている景色までは見えてきづらいのではないか。
“穣”は田んぼの様子、水はけや有機農法といった土壌の情報、粒の大きさ等収穫できる米の性質、ひとつひとつ事細かに知ることができる。それらがあることで味や香りの他に解像度の高い景色を思い浮かべて飲む楽しみも増える。これを日本酒における“地の文”と私は言いたい。
田んぼ違いという特徴はあるが、同じレシピ、同じ会津産五百万石(1種例外はあるが)ということもあり、一つ一つの味わいの違いは微細かもしれない。しかしそこには、土壌の違いや空気の流れ、望む景色という揺らぎのような違いが存在し、それぞれ異なるキャラクターと景色として映し出される。
「会津娘 “穣” 羽黒7」。とんびの飛びゆく会津の田んぼを思い浮かべながら、この酒に没入する。




