フランスを中心に自然派ワインを輸入するサンフォニーで、営業を担当する石井郁哉さん。
今回、石井さんがmy favoriteに選んだ造り手は、ボジョレー・ブルイィのレミ・デュフェイトル。
ブルイィらしい厚みを持ちながら、軽やかで繊細なワインを生み出すレミとの出会いやその人柄、そして石井さん自身のワインとの歩みについてお話を伺いました。
轟木渡(とどろき酒店)
__今日は、どんなワインを飲みましょうか。
石井郁哉(サンフォニー)
レミ・デュフェイトルの「ブルイィ2023」です。
__今回、このボトルを選んだ理由を教えていただけますか?
これまでの記事を読んで、どれにしようかと考えていたんですけど、最初に思い浮かんだのがレミでした。これまで、とどろき酒店さんでも彼のワインを扱っていただいていて、皆さんにも馴染みのある造り手だと思ったので。今回は、彼のフラッグシップである「ブルイィ」の新着2023ヴィンテージを持ってきました。

ブルイィらしくない、唯一無二のスタイル
__レミ・デュフェイトルは、どんな造り手なんですか。
もともとはブルイィでブドウを栽培していて、そのブドウを協同組合に売っていた人です。あるとき自分でワインを造り、それをジャン・フォワヤールやジャン・クロード・ラパリュに試飲してもらったところ、才能を認められ、本格的にワイン造りを始めました。サンフォニーでは、その頃から彼のワインを輸入しています。
__石井さん自身が、レミのワインに出会ったのはいつ頃ですか。
私がサンフォニーに入ってからなので、5年ほど前ですね。フランスでは彼のカーヴにも行っていますし、現地のサロンでも毎回会っています。
__最初に、どんな印象を持ちましたか。
ブルイィは、どちらかというと骨格があって、熟成に時間をかけて楽しむようなワインも多いんです。でもレミのワインは、すごく優しくて、艶っぽくて、軽やかでエレガント。もう少し北にあるフルーリにも通じるような軽やかさがありながら、ブルイィらしい果実の充実感もしっかりある。「ブルイィで、こういうスタイルはなかなかないな」と思いました。
__今回の「ブルイィ2023」にも、その個性は感じますか。
感じますね。厚みはあるんですけど、線が細いんですよ。スパイス感もすごく細かくて。私は少し山椒のようなニュアンスを感じます。そうした緻密さは、レミのワインに共通して感じるところです。

田舎の悪ガキが造る、繊細なワイン。
__実際に会うと、レミはどんな人なのですか。
田舎の悪ガキが、そのまま大人になったような人です(笑)。いつもタバコを吸っていて、ちょっと柄が悪そうに見える。見た目からは、こんな人があれだけ繊細なワインを造るんだって、ちょっと驚くと思います。
__見た目とワインに、かなりギャップがあるんですね。
ありますね。でも、畑仕事はすごく真面目にやっていますし、醸造のセンスも素晴らしいと思います。造り自体は、コンクリートタンクを使った比較的クラシックな方法で、特別変わったことをしているわけではないのに、できあがるワインには、はっきりレミらしさがある。何が違うんだろうって、私も思います。
カーヴも本当にきれいなんですよ。4、5年前に建て替えられているんですけど、いつ訪れてもピカピカで、すごく清潔に保たれています。
__そういうところも、ワインに表れているんですね。
そう思います。ワインを造る環境は、やっぱり味わいにも表れる。カーヴをきれいに保つことも、大切な仕事なんですよね。
__以前は、ヴィンテージによって少し不安定な印象があって、レミのワインは少し難しいと感じていました。でも数年前、試飲会で「キュヴェ・プランタン」を飲んだときに、印象がかなり変わりました。
腕も上がったんだと思います。ヴィンテージによる違いはありますけど、最近は本当にワインがきれいになったと感じますね。
「おいしくない」から始まった、ワイン人生
__石井さんがワインを好きになったきっかけは、何だったんですか。
大学生の頃ですね。最初に居酒屋でワインを飲んだときは、「なんておいしくない飲み物なんだろう」と思って(笑)。それからは、むしろしばらく避けていました。
__そこから、印象が変わるきっかけがあったんですか。
アルバイトの帰りに、社員の方と入ったイタリアンで飲んだワインが、すごくおいしく感じたんです。ごく普通のお店だったと思うんですけど、それまでの印象がガラッと変わって。そこからワインに興味を持つようになり、アルバイト先の近くにあったワインショップでも働き始めました。そのまま就職して3年近く小売を経験したあと、フランスワインが好きだったことから、いくつかのフレンチレストランで働きました。ただ、レストランはやっぱり料理を食べにくる場所ですよね。もっとワインをメインにした仕事がしたいと思うようになり、そこから酒販店へ。営業を8年ほど続けました。
__その後、インポーターへ。サンフォニーを選んだきっかけを教えてください。
酒販店の仕事もすごく面白かったですし、いい経験になったんですけど、やっぱりフランスワインが好きだったので、もう少し生産者に近いところで働きたいと思うようになったんです。海外に行く機会もほとんどなかったので、仕事でフランスに行けたら、という思いもありました。
酒販店にいた頃からサンフォニーのワインを扱っていて、好きな生産者も多かったので、インポーターを探すときは、けっこうサンフォニーを決め打ちで狙っていました。ちょうど人を1人採用しようとしていたタイミングと重なって、入社することができました。
60〜70年の古樹が生む、複雑味と軽やかさ
__2023年は、どんな年だったのでしょうか。
前年の2022年は暑さに加えて雨も少なく、かなり乾燥した年でした。その分、果実の凝縮感が強く、いつものレミより少し濃い印象だったんです。一方、2023年も暑い年ではありましたが、いいタイミングで雨が降ってくれた。だから、果実の充実感がありながら、全体としてバランスのいい年になったと思います。
__「ブルイィ2023」は、どんなブドウから造られているのでしょうか。
もともと、ジャン・クロード・ラパリュが持っていたブルイィの区画を、レミが受け継いでいます。樹齢もかなり古くて、60〜70年ほどのブドウから造られています。
__樹齢の古さは、味わいにも表れるのでしょうか。
そうですね。古樹は根が深く伸びている分、ワインにも複雑味が出てくると思います。そんなブドウを、レミは軽やかなスタイルに仕上げている。すごく贅沢なワインだと思いますね。

気兼ねなく飲める、食卓に寄り添うワイン
__食事に合わせるなら、どんな料理がいいですか。
現地では、シャロレー牛の赤身をシンプルに焼いたものと合わせるのが定番です。レミの家に行くと、表面だけサッと焼いたようなステーキを出してくれます。日本の場合、私だったらカツオやマグロなどの赤身の刺身や、アジのような青魚にも合わせます。
__赤ワインと刺身というのは、少し意外ですね。
冷やし気味で飲むと、すごく合うんですよ。青魚なら、醤油にエクストラヴァージンオリーブオイルを少し垂らして、大葉やミョウガなどの薬味を添えるのも好きです。
__温度が上がると、また合わせ方も変わるのでしょうか。
そうですね。少し温度が上がってくると、四川の麻婆豆腐なんかもいいと思います。山椒の風味とワインのスパイス感がよく合うんです。焼き鳥なら、例えばハツとの相性もいいですし、料理のジャンルをあまり選ばないワインだと思います。
__和食にも合わせやすそうですね。
どこか出汁っぽい感じもあるんですよ。日本の食とすごくリンクするというか。レミ本人を見ると、日本の食とはまったく結びつかなそうなんですけど(笑)、不思議と自然に寄り添ってくれます。
__石井さんは、どんなシーンで飲んでいますか。
自宅でもよく飲みますね。気兼ねなく飲めるところが好きなんです。ワインについていろいろ考えながら飲むのもいいんですけど、何も考えずに、すっと飲める。そういう意味でも、リラックスできるワインだと思います。
光る何かと、全体のバランスを見る
__新しい生産者のワインを飲むとき、石井さんはどんなところを意識していますか。
まず、何か1つでも光るものがあるかどうかですね。香りでもいいですし、「これちょっと化けるかもしれない」と感じさせるものが1つでもあれば、すごく気になります。それと、個人的に意識しているのは、全体のバランスです。
__バランスというのは、どういうことなのでしょうか。
何かが突出するのではなく、それぞれの要素が補い合っているかどうかですね。例えばSO2も、使っているか、使っていないかだけで判断するものではないと考えています。無添加だからこそ出る香りも好きですし、そういうワインはもちろん薦めたい。でも、SO2を使っていても、それを感じさせないくらいほかの要素とうまく馴染んでいれば、それはそれで素晴らしいワインだと思いますね。
__畑と醸造では、どちらをより重視して見ていますか。
どちらもですね。そこもやっぱりバランスです。自然派の生産者には「ワイン造りは畑仕事が9割」と考えている人も多くて、いいブドウを育てて、醸造ではなるべく余計なことをしないという考えがあります。でも、畑だけでも醸造だけでもなく、その両方があっていいワインになると考えています。レミも畑仕事をすごく真面目にやっていますし、醸造のセンスもある。その両方が、レミのワインを支えているんでしょうね。
ワインが日常に息づく街で、いつかレミと
__石井さんから見て、福岡のナチュラルワインシーンはどう映っていますか。
福岡には年に1、2回しか来られていないので、そこまで詳しいわけではないんですけど、焼酎も日本酒もワインも一緒に楽しめるのがいいですよね。ワインが特別なものではなく、日常で飲むお酒の選択肢に入っているというか。そういう自由度の高さを感じます。
__日本について、レミとはどんな話をしていますか。
レミはまだ来日したことがありません。本人は「日本に来たい」と言っているんですよ。来日が実現したら、一緒にプロモーションで回れたらと思っています。ぜひ福岡にも一緒に来たいですね。





