四月の筑後川は、春の気配にやわらかく包まれています。
冬の間張りつめていた空気がほどけ、川面には淡い光が揺れ、土手にはシロツメクサやす
みれをのぞかせる。耳納の山々を渡る風もどこか軽やかで、蔵へ向かう足取りに自然と力
が宿ります。
蔵の中では、日本酒の製造が仕込みの終盤を迎えています。長い冬を共に過ごした醪たち
は、それぞれ静かに清酒へと姿を変えていきます。
この時期は、いわば【答え合わせ】の季節。
7BY(注1)の酒造りが、どのような表情を見せてくれたのか。
醪経過簿を開き、日々の判断や迷い、体感までも思い返しながら、できあがった酒を一つ
一つテイスティングしていきます。
グラスに注がれた酒の香りをそっと確かめると、造りの時期に見た景色が蘇ります。
「この判断は正しかったのか」
「あの瞬間の迷いはどう響いたのか」
酒は、言葉を持たないままに、確かな答えを返してくれます。
それは時に厳しく、時にやさしく、そして何より誠実です。

答え合わせを終えると、心は自然と次のBYへ向かいます。
8BYをどう動いていくのか。
どんな酒を生み、どんな時間を届けていくのか。春の光の中で考えるその時間は、冬の緊
張とはまた違う、静かな高揚に満ちています。酒造りは毎年同じようでいて、決して同じ
ではありません。
米も水も気候も、人の心も変わり続ける。だからこそ、山の壽の酒造りは毎年新しい始ま
りを迎えるのだと思います。
そして四月になると、蔵の外でも動きが始まります。
イベントの季節です。
人と酒が出会い、笑顔が生まれ、言葉が交わされる場所。旅立った酒たちが、どんな表情
で人の時間を彩っているのかを知ることができる、大切な機会でもあります。
今年は4月24日にとどろき酒店さんでお酒イベントが控えています。春の光をまとった酒
たちが、どんな“good times”を生み出してくれるのか。その場に集う人々の笑顔や会話の
ざわめきが、また次の酒造りの力となっていきます。
蔵で育まれた一滴が、外の世界で誰かの時間を照らし、その物語がまた蔵へと還ってくる
。その循環こそが、山の壽の次をつくってくれます。
筑後川の流れが緩やかに春を運び、蔵の中では7BYの答え合わせと次のBYへの準備が静か
に始まる。
旅立ちと始まりを繰り返しながら、山の壽の一年はまた新しいページを開いていきます。

(注1)「BY」とは、「Brewry Year」の略で「酒造年度」のことです。酒造年度とは、日本酒独特の期間区分のことで、7/1~翌年6/30までの期間。つまり7BYは令和7年7月1日~令和8年6月30日までの酒造り期間ということ。




