第2回 キャプテン・ビーフハートと飲んだ夜

キャプテン・ビーフハートことドン・ヴァン・ヴリートは音楽界/美術界にまたがる鬼才だった。音楽家としての驚嘆すべき業績は『Trout Mask Replica』(1969年)という2枚組のレコードを聴けばすぐにわかると言いたいが、実際のところはほとんどわからない。普通の人があのアルバムを聴き始めたら、おそらく数分もしないうちに音をあげるから。レコーディングにあたってはメンバーを監禁し、極度の禁欲状態にして演奏させたという。欲望を音にぶちまけたバンドを従えて、キャプテンは直感的で支離滅裂な現代詩を低いだみ声でうなり続けた。これが音楽としてどれほどすごいか言葉にする前に、人はまずこう思うはず。

 「こいつとは一緒に飲みたくない」

 そりゃそうでしょう。でもね、そんなキャプテンと飲むことができるお酒がある。というか、それを実践したやつがいる。
 1998年に公開された映画『ビッグ・リボウスキ』(ジョエル・コーエン監督)のワンシーン。家賃を滞納しながら暮らす部屋で主人公のデュードは、今日も朝からホワイト・ルシアンを飲む。中年の体にいいはずことなんか1ミリもないカクテル。慣れた手つきで、まるで健康ドリンクみたいにウォッカとカルアミルクをかき混ぜるその背後で、キャプテン・ビーフハートの曲がうっすらと流れている。
 その曲は「Her Eyes Are A Blue Million Miles」。1972年のアルバム『Clear Spot』に入っている。「おれを愛してると言う彼女の瞳は100万マイルくらい深い青だ」だなんて、まるでラブソングみたい。だがキャプテンの声で聴くと、この男は「愛してる」なんて言葉にはさして興味がないんだとわかる。その深く青い沼に、キャプテンもデュードもわれわれも、ただただ飲み込まれていく。
 多発性硬化症を患ったキャプテンは、1982年に音楽活動から引退。余生は画業に専念し、妻とモハベ砂漠のキャンピング・カーで暮らした。生前最後のインタビューは2001年で、相手はなんとU2のボノ。電話口でキャプテンは最後にこう言ったそうだ。

 「きみに感謝したい。電話で話せてとてもうれしかった」

 鬼才の最後のあいさつは、とってもさびしがりやだった。ホワイト・ルシアンみたいな日本酒があったら、それで乾杯!

轟木渡
轟木渡

☆キャプテン・ビーフハート/Her Eyes Are A Blue Million Milesと合わせて飲みたい日本酒


飛鸞(ひらん) Reborn (貴醸酒)

鬼才に合わせるならばひねりの効いたお酒を。

合わせたいのはこの貴醸酒(きじょうしゅ)のReborn。
通常の日本酒の原料は米、米麹、水が基本。
しかし貴醸酒は水の代わりになんと日本酒そのものを使うという変わり種。

貴醸酒らしいとろりとした甘さに、ピシッとした酸を乗せるのが飛鸞の森杜氏流。
濃醇だけど重くない絶妙なバランス。飲んでいるうちにクセになりそうなお酒です。

飛鸞(ひらん) Reborn (貴醸酒) 火入れ 500ml

松永良平

リズム&ペンシル。雑誌/ウェブを中心に記事執筆、インタビューなどを行う。著書に『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社)『20世紀グレーテスト・ヒッツ』(音楽出版社)。Instagramにて猫イラスト「#一日一猫mrbq」随時公開中。のんべえではないですが、お酒は好きです。